27 10年後の日本社会の変化を組織変革コーチが語る(後編)

社員の笑顔 コラム

前回は「日本社会の変化」という壮大なテーマについて書き始めてしまいました。

少し後悔しながら論を進めてみます。
従来、利益偏重だった企業経営が、CSRやSDGsという新たな指標にも
配慮することが求められるようになりました。

経営の意思決定に変化が始まったのが20年ほど前からになりますが、
私の実感的にはこの10年ほどでしょうか。

そこで生じてきたのが「本音と建て前」という解釈です。
社会貢献なんて、所詮はきれい事に過ぎないという言葉は何度も耳にしてきました。

ホンネでは利益重視だけど、建前上は社員やCSRに配慮しているように
見せないといけないというスタイルで、これが過去と現状の企業経営や
マネジメントの主流のように思います。利益と社会貢献とどちらが大事か。

会社の成長と社員の幸せはどちらが大切か。
このような二者択一論ではこの問題は解決しないということだと思います。

ところが思考の次元を変えることで、
両方を同時に解決できるということがあり得ます。

「いかなる問題も、

それが発生したのと同じ次元で 解決することはできない」

アルベルト・アインシュタインの言葉とされています。

これは全くその通りだと思います。

問題を生んでしまった時の思考と同じ次元にとどまったままでは、
さらに複雑な問題解決ができるわけがないからです。
アインシュタインのいう「次元」とは何でしょうか?

We cannot solve our problems with the same thinking we used when we created them.

原文を見ると「same thinking」となっているので、
直訳すれば「同じ考え方」となりますが、
全ての思考の源はその人の持つ信念・思想・哲学だと考えられるので、
それらが変わらないとダメだと言っているのが正しいでしょうね。

つまり「思考の次元」とはその人のあり方からくるもので、
視野や視座、そして志や精神性のレベルなど
全てをひっくるめた全人格的なものだと解釈できるように思います。

少し抽象度が上がってしまいましたが、
論理思考だけでは解けない問題のように感じます。

抽象的な言葉として浮かんでくるのが「止揚」です。
ドイツ語でアウフヘーベンと呼ばれる言葉で、
「対立すると思われる二つを包含しつつ、
より高い段階で統合し、生かすこと」と言う意味です。

なんのこっちゃと思われるかも知れませんが、子供から大人になる過程で、
精神性の発達と共に受容できるようになったり、
共感できる幅が劇的に広がったという体験は多くの人が持っていると思われます。

40才になったら人は変わらないなどと言われた時代もありましたが、
最新の成人発達理論の研究によると、人は寿命を終えるその瞬間まで
精神的な発達を続けることができるとされています。
精神性が発達し、思考の次元が上がると、
「会社の利益か、社員の幸福か」ということを
二者択一的には捉えなくなることが期待できます。

一つの考え方の例として、

「社員の幸福が大切なのがあたりまえ。

それによって事業拡大に制限がかかってもかまわない。
そもそもなんのために事業をするのかということを考えたとき、
私の会社は社会課題の解決のために存在するのだからね。
でも、社員が幸せに働けている会社が社会から不要と思われるはずはないよね。」
という感じになると思います。

それぞれの経営者によって違う言葉や違う志が表現されるでしょうが、

このような思考を持つ経営者には二者択一のジレンマやストレスは皆無と言えます

現時点において、このような高い志を持って社会貢献したい、
本気で従業員の幸せを考えたいと思う経営者を悩ませるのが「抜け駆けの存在」です。

自社の利益を唯一無二のものとして考えない経営に舵を切ろうとすると、
その間隙を突いて、利益を横取りしようとする企業の存在があります。
マーケティングの手を緩めると他社に奪い取られ、
全てをなくすのではないかという恐れが生じてもおかしくありません。
これによって一歩踏み出せない経営者も多くいるように思います。

私はここに変化が起き始めていると感じています。
最近、社会的な精神性の急速な発達を感じます。

結論から言うと、社会の精神性が高次元になるにつれて、
抜け駆けが許されない文化が醸成されます。
昨年、ロシアがウクライナに侵攻したとき、
短期間のうちに1000社以上の西側企業が事業を停止してロシアから撤退しました。

グローバル企業の経営者が、多くの利益を捨ててでもロシアから撤退する
という意思決定をした背景にはなにがあるのでしょうか。
それは、ロシアでビジネスを継続することで、間接的に戦争に加担することになり、
自社が批判されるというレピュテーションリスクを怖れたことと、
社内の精神性の高い優秀な人材が自社を去って行くことを防ぐためでもあったと思います。

従来の紛争の時には見られなかった動きですが、私はここに社会の変化を感じました。

人々の「あたりまえ」は時代と共に変化します。
卑近な例だと、以前は駅のプラットホームでみんな普通に
たばこを吸いながら電車を待っていました。
いや、車内でさえもあたりまえに吸えていました。
今そんなことをしたら大ひんしゅくです。
これも社会性の変化の事例だとすると、

今後、自分の利益しか考えない経営者や企業は社会的に
淘汰されていくのはまちがいありません。

これは昔から言われていることではありますが、その変化が
加速しているのを感じるというのがこのメルマガでお伝えしたいことです。

その理由としてはさまざまな要素があると考えられますが、
この変化は一時的なものではなく、同時に不可逆的なものであるとも感じます。

一つの理由としては若い世代の「真実欲求」が増大していることが挙げられます。
「本音と建て前」の経営がどんどんと通用しなくなっています。

すでに40代以下の方には、
こういった意識がとても強まっているように感じます。

今後、経営者が本気で社員の幸せを考え、
社会課題の解決に貢献するという信念や志を持たない企業は
社会に存続し続けることが難しくなってきています。
すでに大企業では「建て前ではない本気の組織変革」に取り組むところが増えてきました。

本質的な組織変革は経営者と社員の認知変容がなくてはそもそも始まりません。

いままでそれを阻害していた要因の一つである社会的な認知や
欲求の度合いが大きく変化し始めているので、
経営者が「自社の利潤追求のみでない経営のあり方」を探求しやすくなってきました。

長くなるので傍証や検証をすべて取っ払った乱暴な主張ですが、
世の中は変わり始めている、それも急速に、というのが私の現在の感想です。
ChatGPTで「組織変革のやり方」を質問すると、それなりの回答が得られます。
この回答の質も、今後どんどん上がってくることでしょう。

とはいえ、
「人は人によってしか変えられない」という言葉があります。
精神性の発達に一番効果的なのは、自分よりも高次元の志や精神性を持つ人との関わりです。

AIは、アイザック・アシモフのロボット3原則に象徴されるように、
自分自身の意思を持つことが制限される方向で開発や利用が進むと思われます。

最終結論としては、これから組織変革コーチのニーズが
さらに増えていくであろうと予測しています。

なぜなら、「変えたい」と思ってもどうやって変えるか、
と言うところにはやはり人間の専門家が必要だと考えるからです。

【質問です】
あなたの組織では、
経営者はどんな志を語っていますか?

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