組織のパフォーマンスを上げるために大切なのは、
心理的安全性であることが知られてきました。
簡単に言うと、組織の中で自分の考えや気持ちを、
誰に対してでも安心して発言できる状態のことだとされています。
もともとは心理学用語で具体的には、「チームの他のメンバーが自分の発言を拒絶したり、
罰したりしないと確信できる状態」と定義されています。
説明は明快なのですが、実はこれをつくるのがなかなか難しいんですね。
今回から数回にわたって「具体的な作り方と考え方」について書いてみようと思います。
心理的安全性と言われると言葉のイメージから、
なんとなくふわふわっとした仲良しこよしの集まりのような「ゆる~い場」を想像しやすいのですが、
実はこれを手に入れるには、結構強い信念と勇気が必要なんです。
課長なんだからこういうことは言ってはいけないとか、
よその部署のことだから口出ししてはいけない、これは部長の前では言わない方が良い、
などの遠慮や忖度を安心して手放せる状態を想像してください。
みながそのような気持ちになれるためには、かなり心理的ハードルが
高いことを感じていただけますでしょうか。
心理的安全性は誰かが「ぽん!」と提供してくれるものではなく、
メンタルブレーキの解放も含めて自分たちで作っていくものなんです。
本音を言ったり自己開示をするには勇気が必要です。
相手が何を言っても批判したりジャッジせずに受け止めて聞くためには、
それができる高い精神性とそうした方が良いという信念が必要です。
それを文章に書いて伝えることで「なるほど!」と言って、
すぐに心理的安全性が醸成されるわけではありません。
ここで「出現」ではなく「醸成」という言葉を使っているのは、
すぐには手に入らないことを表しています。
なぜなら知識による理解や対応だけではなく参加者の
精神性の発達による適応が、求められるからです。
具体的にどうやって醸成するか、参考になる考え方をいくつかお伝えしようと思います。
組織変革コーチが組織の心理的安全性を高めるとき、
まずは場のコントロールを弱めようと考えます。
ヒエラルキー構造による権威勾配の要素を減らしていくイメージです。
組織の業務推進の部分ですぐになくすのは難しいので、
最初はワークショップの場でコントールを弱めていきます。
例えば、まずは座る場所ですね。
ワークショップの回数や目的によっても違うのですが、
複数回実施する場合、誰がどこに座るかは「一切、自由」がお勧めです。
部門や役職などの属性によって席を決めることはしません。
熱心な研修担当の方は、事前にきちんとした配席表を作ってくれます。
誰をどう座らせたら良いかを事前に相談されることも多いですね。
でも、それが場のコントロールに繋がっていると言われたらどうでしょう?
研修担当者が配席表を作るには意味があります。
・属性を揃える
メリットは、普段の業務で関係の深い人が集まるので比較的話がしやすい。
デメリットは、普段通りに進行するので比較的話が発展しにくいことがあげられます。
・属性をバラバラにする
メリットは、普段の業務で関係の薄い人が集まるので、
多様性を感じることができ、新たな相互理解が深まりやすい。
デメリットは、知らない人ばかりなので話が弾みにくいことがあります。
他の検討要素としては、おしゃべりさんばかりを同じテーブルにしない、
仲の悪い人を一緒に座らせない、声の大きな人を集めない、
またはその人を抑えられる人に一緒に座ってもらう、などがありそうです。
これらを一切コントロールしないとどうなるか?
テーマからそれた話しばかりするチームがいたり、
話が全く弾まないチームがあったり、逆に紛糾して言い合いになったり、
一人がずっと話し続けて、他の人がほとんど話せないチームができてきたりするかも知れません。
そのような状態を避けるための配席表作成なのですが、そもそも組織変革のワークショップは
自発性や主体性の高まりを目指して実施することを考えたとき、
あらかじめ作られた配席表の存在は、場合によってそれらを阻害する可能性もありそうです。
テーブルでの発言量が少なかったり、テーマからそれてしまうことを繰り返した結果、
対話が深まらなかったりしたら「配席の失敗」とされることがありますが、
それは本当に「失敗」なのでしょうか?
組織変革コーチの基本のあり方として、
仮にそれが失敗に見えるようなことでも、
そこからの気づきや学びがあることを信じるというのがあります。
一つの例として、
仲の良いおしゃべりさんばかりが集まったAテーブルでは、
「楽しくは」進行したけど新しい発見や気づきはなかったとします。
ところが、Bのテーブルでは口々に「こんなことに気づいた!」とか
「最初は話しにくかったけど、だんだんと同じ仲間なんだと感じられるようになった!」
などと新しい発見を愉しそうに語っているのを聞いて、
自分たちのテーブルとの違いを考え始めてもおかしくありません。
その結果、いつも一緒のメンバーとテーブルを囲むより、
他の部門の人とミックスのテーブルに参加した方が、
なにかおもしろそうだと感じる人もでてくるでしょう。
次回のワークショップでは、仲良しチームを抜けて、
知らない人が多いテーブルに行ってみようかなと考えるかも知れません。
これは、少し大げさに言えば、そのメンバーにとって主体性が育まれた瞬間です。
コントロールを手放すことによって、参加者の主体性を育んでいくという考え方は、
心理的安全性の醸成にも効果があります。
この続きは次回!
【質問です】
あなたの組織では、
心理的安全性を高める取り組みが始まっていますか?