011 アドバイスは危険な行為?

社員の笑顔 コラム

経営者やマネージャーの皆さんは、
部下にアドバイスをする機会が多いと思います。

そのアドバイスがとても危険である可能性についてお話しします。

東京医科歯科大学で精神行動医科学を研究する高橋英彦教授は、
他人の不幸を喜ぶ時に使う、
「他人の不幸は蜜の味」は本当だったとの研究をまとめました。
被験者に優越感を感じるような感情的刺激を与えると、
脳のどの部位が反応するかをfMRIを使って観察したところ、
「心地良い」を感じたときに活動する部位と同じだったと言う事です。

同時に、嫉妬心を感じたり、うらやましく思ったり、
ねたみを感じたりするときに活動が活発になる脳の部位は、
身体的な痛みを処理するときの部位とほぼ重なっているそうです。
「つらくて身を切られるように感じる」という表現は、
脳科学の研究によって正しい表現であることが裏付けられたようです。
人の不幸を喜ぶのは人間性を問われることになりますが、
脳科学的にはそれが通常の反応だそうです。
脳ってなんだか罪深い存在に思えますね。

アドバイスについても、興味深い研究報告があります。
人間は強いストレスを受けると、
脳内にコルチゾールという副腎皮質ホルモンが分泌されます。
そのホルモンは、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の後遺症を持つ患者の脳内に多く存在します。
コルチゾールは、脳の記憶形態に深く関わる海馬を萎縮させる作用があり、
強い心的外傷によって記憶喪失や記憶障害を引き起こす一因となっている物質です。

高橋教授の研究では、この恐ろしげなコルチゾールが、
ある言葉によって大量に分泌されることが確認されたそうです。
あなたは、どんな言葉だと思いますか?
それは、
「ちょっとキミの仕事についてアドバイスしても良いかな?」なんですね。

人間は社会性の強い動物なので、無意識のうちに周囲との関係性を気にかけていて、
特に相手と自分の立場でどちらが上位かを強く意識する習性を持っています。
なので、「アドバイス」という言葉を聞くと、
「それを受ける側の自分の立場が弱い(相手の方が強い)」と、
脳が勝手に状況を分析し、そう判断した結果、自然反応的に
どばっ!とコルチゾールが分泌されるそうです。
つまりアドバイスを受ける状況は、その人の脳にPTSD障害を引き起こすのと同じくらい、
極度のストレスを与える可能性があるのです。

もちろん、
アドバイスする側との関係の質によっても左右されるため、
この研究の結果がすべての人に一様に適用されるわけではありません。
リーダーの皆さんは相手よりも立場が上なので、
アドバイスを与えるときはその話の内容以前の問題として、
相手はすでに相当の緊張状態にある可能性が高い
ということを知っておいてください。

まして、その時リーダーが感情的になって怒っていたりすると、
その部下は「PTSDの後遺障害に匹敵する量のコルチゾールが分泌され、
瞬間的な記憶障害を引き起こすほどの極度のストレス」
を感じている状態に陥っているかも知れません。

これではまともな判断や回答を考えるどころか、
通常の会話も成り立たない可能性すらあります。
コミュニケーションがうまく取れないときによく起きている、
相手に「伝えたいこと」と、相手に「伝わったこと」には大きな違いがある
と言われる理由には、こういう脳の反応が関係していそうですね。
相手のためによかれと思って言うアドバイスが伝わらないように感じたときは、
そもそもの関係の質を高めることが必要なのかも知れませんね。

質問です。
あなたの組織では、部下が上司からのアドバイスを喜んで受け取れるような、
関係性を築けていますか?

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