ちょっと昔話をします。
組織変革についての知識が全くない時代に、
奇跡的に部下の育成に成功した数少ない事例です。
私はサラリーマン時代はずっとエンジニアをやっていました。
ある日、支社で働いている私のところへ、本社から役員が訪ねてきました。
何事かと思ったら、来月から本社に来て開発部長をやってくれ、とのこと。
びっくりしましたがサラリーマンが、辞令に逆らうことはできません。
住んでいる神戸から、高速道路で1時間以上もかかる本社工場に通うことになりました(T_T)
赴任した開発部には課長が3名いたのですが、
どうもそのうちの一人が会社や上司に超反抗的な「問題児」のようでした。
人事部や前任の担当者から「あいつには気をつけろ!」と聞かされていました。
ドキドキしながら会ってみると、確かにK課長の目つきは鋭くて、
お前の言うことを素直に聞いてなんかやらないぞ!という強い意思を感じました。
彼が担当していたのは量産品の企画が中心で、
特注品のロボットばかり開発してきた私には全く経験がない領域でした。
上司とはいっても、経験がないことについては指導ができません。
必然的に彼の話を聞くことの方が多くなりました。
いろいろと教えてもらっていると、
知識も豊富で論理的にもよく考えている優秀なやつだということがわかってきたのですが、
発言に少し気になる点がありました。
それは、意見を言うと最後に「ほんとはだめですけどね」
という言葉をつけるのです。
じゃぁ、だめじゃない考え方を教えてほしいというと、
とてもよく考えていて、説得力のある意見を聞かせてくれます。
でも、また最後にこう言うのです、
「どうせ無理ですけどね」
なぜ無理なのかを尋ねると、
今までいくら正しいと思うことを言っても自分の意見が通った試しがないから、
もう言うのを止めました、と言うのです。
彼の反抗的な態度の原因はどうやらここにあることがわかりました。
彼の意見が通らない理由は、とてもありがちなことでした。
・予算がない
・余分な人がいない
・生産設備がない
・前例がない、などなど
どこの組織でも「NO」の理由にされているものですね。
それに対して声を荒らげても事態は前に進みません。
彼は顧客と会社の利益を考えて、
より良いものを作るために「自分が正しい」と思うことを
主張しても受け入れらないことに憤慨し、反抗していたのです。
その時の私は正直に言って、彼の育成をはっきりと意識していたわけではなく、
同じ開発エンジニアとして、「より良いものを作る」という点に共感したんですね。
もともと私自身も、事なかれ主義や前例踏襲が大きらいだったこともあって、
彼の企画を通そうと、社内や加工業者を回って理解者を増やしていきました。
数ヶ月かけて開発承認が降り、社内プレゼンにこぎつけました。
営業部も参加する大きなセレモニーでしたが、
新企画の商品の評判は良く、最後の開発部長挨拶のとき、私はK課長を褒めちぎりました。
この発想も企画も基本設計からここにある試作品まで、すべてK課長がやってくれたんです。
ご存知のように、私は量産品はまったくわかりません。
K課長がいないとこの企画は絶対に実現していませんでした。
みなさん、拍手をお願いします!とやったんです。
ちょっと芝居かかっていましたが、社内のことなので笑いながらみんな拍手をしてくれました。
これで彼の評価は好転を始め、そのような企画をもう2つほどこなしていくうちに、
営業部から「彼に企画してほしい」とご指名が入るようになりました。
まだ興味深い話は続くのですが、
あれほど「反抗的でどうにも使えないやつ」と言われていた彼ですが、
1年も経たないうちに振る舞いが変わり、社内の評価も根底から変化しました。
数年後、K課長は私の退職後、後任の開発部長に任命されました。
役員会でも全会一致で承認されたそうです。
今から振り返ってみると、
彼が成長してくれた理由が私から見て2つあるように思います。
一つは良いものを作りたいという強い思いに私が共感したこと。
もう一つは、私が量産品のことを何も知らなかったこと、です。
なので、彼の意見を素直に聞いて、余計な指示やアドバイスなどせず
(したくてもできなかった^^;)
すべてを彼に任せたことですね。
それがスムースに進むように、社内の交渉事は応援しました。
私の退職のときの、彼からのお礼の言葉は「信頼して任せてくれて感謝しています」でした。
育成意識が乏しかった私は、
いや、きみを育てようと思ってやったわけじゃないんだけど・・
という言葉はかろうじて飲み込みました^^;
無条件で信頼する。
これ、本当に大事ですね。
意識してやったことではなかったのですが、
部下が成長した姿を見るのはとてもうれしいことです。
10年以上前の奇跡のエピソードでした。