先日、ラリージャパンが中部地方で開催されました。
これは国際自動車連盟が管理する世界ラリー選手権の日本ラウンドです。
私も20代の頃、モータースポーツをやっていたので、とても興味深くテレビで観戦しました。
若い時に夢中になっていた事っていつまで経っても本当にいい思い出ですね。
今日はその思い出の中の、不思議話を紹介します。
私がやっていたのはダートトライアルという競技で、
1周で1~2分程度のダートコースを1台ずつ走ってタイムを競います。
往年の森田選手の競技車輌
ラリーで言うところのスペシャルステージですね。
失敗すれば崖から転落なんてことも珍しくなく、
実際、ほぼ毎回の競技で転倒や転落する車輌がありました。
しかし、レギュレーションでヘルメット着用や、ロールケージと
4点式以上のシートベルト取付など、
安全装備が厳格に決められているので激しく転倒してもたいていの場合、ドライバーは無傷です。
出走前にはちゃんとレース車検があって、安全性に問題があると出走できません。
レース中に体験したのが「集中力の不思議」についてです。
通常ではない、不可思議なモードに確かに入っています。
好成績だったレースを振り返ると、今日は勝つぞ!というアドレナリンは出ていても、
頭はとても冷静だったというのが共通した印象です。
エンジンを全開にして滑りやすいダートコースを駆け抜けるので、
車体がまっすぐ前を向いているときの方が少ないくらいです。
競技中はほぼ横に滑った状態のまま、アクセルだけで姿勢をコントロールしていきます。
この状態をドリフトと呼びます。
そんな極限状態で、真横を向いて走っているコーナーの最適な離脱位置と車体の角度、
さらに次のコーナーへの最適な進入角度と速度を驚くほど冷静に計算している自分がいます。
4つのタイヤそれぞれにかかっている垂直荷重やベクトルを計算しながら
クラッチ、シフト、ブレーキ、アクセル、ハンドルなどでドリフトアングルを制御して、
全開走行しているんですね。
競技中は、驚くほどたくさんのことを同時に処理していることになります。
操縦ミスをした時にはさらに忙しくなります。
コースアウトしそうな車輌をなだめるために、考えつく限りのリカバリー操作を行います。
おっとっと!
ダメだと思うときは、障害物にぶつからないように、
サイドブレーキを引いてその場でスピンさせたりします。
それでもいよいよ衝突が避けられなくなったら、
前をぶつけるとダメージが大きいので、
リアをぶつけるように最後まであきらめずにコントロールします。
さらに練習時などで助手席に人(特に女性)が乗っているときは、
運転席側をぶつけるようにするのがラリーストのマナーだったりします。
これって、あっ!と思ってからスピンさせて止めるまで、わずか数秒程度のあいだの判断と操作なんですよね。
そんなことって、本当に可能なのかと思いませんか?
実はその瞬間、時間がスローに動いているように感じているのですが、
自分でもよくわからないことが起きているような雰囲気です。
元巨人軍の川上監督は現役時代に「ボールが止まって見える」と言い、
王監督は「ボールの縫い目が見える」と言ったそうです。
二人の偉大な選手とは次元が違うでしょうが、もしかしたらそれに近い状態だったのではないでしょうか。
集中力が極限まで高まり、感覚が研ぎ澄まされた状態のことを「ゾーンに入る」と表現しますが、
そんな状態だったんだなと思います。
雪の上を100キロ以上で走るとカーブの50m以上手前から斜めになってドリフトすることになります。
レースをしない友人から「Crazy!」とよく言われましたが、
当時の私はそれをほめ言葉だと思って聞いていました。
私は近畿シリーズを戦って自分の才能の限界を感じ、全日本シリーズを狙うことを諦めました。
トホホ・・・
引退試合で優勝した、若き森田選手
とはいえ、当時の森田選手はドリフト中の車体の姿勢を±10センチ以内の精度で
正確にコントロールしていました。
しかし、全日本クラスのドライバーのテクニックは明らかに私より数段上のところにあり、
彼らは±数センチの精度で見事に車体をコントロールしていました。
でも、彼らに言わせると「世界ラリー選手権にでている奴らは±2~3ミリやな」
とのことで、上には上がいるものだと心底驚いた記憶があります。
世界の舞台を走るドライバーは、どんな集中力で、どんな景色を見ているのでしょうね。